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音に駆ける×FILM BRASS(鎌田渓志・森山一輝)| 映画音楽×金管の可能性を追って

音に駆ける」をテーマに、クラシック奏者へ過去・現在・未来をお聞きする記事企画。第5弾は、来る2023年5月4日、第10回目の記念公演を控えているFILM BRASSの鎌田渓志さん・森山一輝さん。 公演1か月前を控えた今、これまでの軌跡と、公演に向けての心境をお聞きしました。

 

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Profile

鎌田渓志(ホルン)/かまだけいし/FILM BRASS主宰・アレンジャー

鎌倉市出身。神奈川県立七里ガ浜高校、東京藝術大学卒。第23回神奈川県高校文化連盟ソロコンテスト奨励賞受賞。2015年、ロサンゼルスで行われた国際ホルンシンポジウム(IHS)で、IHS Premier Solist Competition 4位入賞。同シンポジウムのIHS Ensemble Competitionでは、ジョン・ウィリアムズ作曲『ジュラシック・パーク』を編曲・演奏し、優勝。ハリウッドシアターにて特別演奏を行った。第35回日本管打楽器コンクール入選。

森山一輝(トランペット)/もりやまかずき/FILM BRASS バンドマスター

山口県防府市出身。広島県立安古市高校、東京音楽大学を卒業し、桐朋オーケストラアカデミー研修課程修了。2016年大学の推薦によりシベリウス音楽院へ短期留学。第6回横浜国際音楽コンクール大学生の部審査員奨励賞受賞。第13回大阪国際音楽コンクール金管楽器Age-Uにおいてエスポワール賞を受賞。成績優秀者による管打楽部会主催東京音楽大学卒業演奏会に出演。第38回広島市新人演奏会に出演。これまでに、トランペットを白石実、杉木峯夫、栃本浩規、津堅直弘、アンドレ・アンリ、高橋敦、パシ・ピリネン各氏に師事。

結成6年で10回目の公演を迎えるブラスアンサンブル

2017年9月、映画が好きな若手金管打楽器奏者により結成されたとのこと。映画音楽というと、クラシック畑の人からすると珍しいジャンルですが、どんな経緯でスタートしたんでしょうか。

 

鎌田渓志

もともとは桐朋学園大学ほか首都圏の音楽大学の学生を中心に構成された「東京ガーデン・オーケストラ」から進化していったアンサンブルなんです。

 

そのあたりのオーケストラで 「映画音楽を演奏しているらしい」と聞きつけてきた屈指の映画音楽オタクの方がいらっしゃいまして。それが、ジョン・ウィリアムズファンクラブの代表でもいらっしゃった、映画音楽オタクの神尾保行さんという方なんです。

(日本の映画音楽の流行りの走りを作ったのが神尾さんといってもいいほど、だそう)

 

その神尾さんの呼びかけで、2017年の8月に若手演奏家80名くらいのオーケストラ(Tokyo Film Symphony Orchestra)での演奏会があったんですが、これがうまくいきまして。そのあとの懇親会を経てノリと勢いで結成されたんです。

 

デビューとしては、2018年1月、スペースDoという場所での公演になります。ちょうどその頃にちょうど神尾さんがお亡くなりになってしまい「神尾さんの遺志を継ごう」という想いも持ちながらスタートしました。

 

―そういうスタートだったんですね!

 

森山一輝

当時は11名でスタートをしたのですが、お客さんは110名入りました。7月に2回目、12月に3回目とすごい勢いで演奏会を開きました。

 

 

金管だけで映画音楽をやる面白さと苦労

 

FILMBRASS。その名の通りまさに映画音楽がテーマですが、もともと金管のみで演奏される曲が多いのでしょうか。

 

鎌田渓志

我々がもともとオーケストラ出身ということもあり、オーケストラの金管セクションの人数がだいたい10名ほどでして。

実はその人数の金管アンサンブルにむけた曲目はあまりないのが実情です。金管10重奏とかはあるのですが…。

 

そうなると、スコアがない曲も多いでしょうけれど、楽曲はどのように制作(編曲)されていますか?

 

鎌田渓志

ええ、大変です!僕が1~10回目まですべて編曲してきたんです。

映画音楽は権利関係も厳しいので、まず管理会社を調べて許諾をとって、時には海外から仕入れてきた大きなスコアを開いてにらめっこしながら編曲作業をすることもあります。原曲がオーケストラのために書かれていることが前提なので、全部の曲を金管でやれるわけではないのです。

 

ー金管楽器は音域の問題もありますよね。弦楽器などに比べると、小回りが利きにくいというイメージもあります。

 

森山一輝

音域については、例えば高音ならピッコロトランペットという楽器がありまして、あるいは低音であればチューバだとか。おっしゃるとおり、オーケストラでは金管楽器ってどうしても「刻み」とか「一撃」が多い中で、そんな人たちだけでアンサンブルを組むとなるとやはりアレンジが必要です。

 

テクニック面は確かに大変ですが、ハイレベルな奏者が集まっているので、技術でカバーしている部分もあります。

 

鎌田渓志

実際、原曲には速いパッセージもたくさんありますが、それぞれの奏者に得意とニガテがあるので、そのあたりをくみ取ってアレンジすることにも慣れてきましたね。

 

森山一輝

トランペットだと4人いるのですが、例えば僕は音量が出る、持ち替えが苦にならないなどの「得意」があり、それを生かせるように編曲してくれています。

 

鎌田からPDFでアレンジが送られてくるのですが、それはこっちのほうがいいよ~、などとコメントが入ることも多々あり(笑)

あれこれと言い合いながらすすめています。まあ、実際は練習しながらしれっと編曲を変えることもあったりします。

 

音域的に問題があるときには、ピッコロトランペットと普通のトランペットの間の管(B管)を使って吹くこともありますし、楽器のチョイスは各自にもゆだねられている感じです。

 

ー鎌田さんが、アレンジしていく上では何か気をつけていることはありますか?

 

鎌田渓志

2つあります。まず1つは調性ですね。金管楽器はフラット系の調性が得意なんですが、原曲の調性がシャープ系であっても、可能な限りそのままの調で演奏します。原曲へのリスペクトをもってアレンジすることを意識しています。

 

2つ目は、全員が主役になれるように、必ず演奏会中のどこかでソロのパートがあるように編曲しています。

 

さっきもお話ししたとおり、各奏者の個性を理解したうえでのアレンジなので、ある意味FILM BRASS専用のスコアになっていて、出版されてない唯一無二のアレンジといってもいいかもしれません。

 

 

過去の公演を通して、バンドもお客様も進化

ー過去9回を通して内容、ファン層、どんな風に変わってきましたか。

 

鎌田渓志

最初は僕たちの好きな曲をとにかくやるというスタンスで。それから、できる曲、やるべき曲、お客様から求められている曲も増やしていきました。

 

お客様の層は、最初から映画音楽が好きで来てくださっている方もいらっしゃいますが、一人一人の個性が際立つ人数や編成でおこなっているので、徐々に「この人を見に来る」「演奏楽曲問わず、FILM BRASSの舞台を見に来る」という方が増えてきたように思います。

 

お客様からお褒めいただける内容も、「高い音がよく出ていてすごかった」といった単純なものではなく、「あそこのレの音の余韻がすごかった」「どうしたらあんな雰囲気が出るのか」といった、より音楽的な内容に変わってきましたね。

 

ー今回の公演は14名が出演されますが、現在のメンバーの人数はどのくらいですか。

そしてどのようにメンバーを集めているのでしょうか。

 

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鎌田渓志

初回から出てるのが約半数の7名です。残りのメンバーは、ほしいパートを増やしていって今の人数に落ち着きましたね。

 

結成当初はテナートロンボーン3人でしたが、のちのちバストロンボーンもふやしたり・・・。メンバーの知り合いで推薦するにあたっても、キャラクター重視で増やしています。



森山一輝

金管オンリーということで活動していましたが、第1回公演からのお客さんであったピアニストの志村さんをお迎えすることになってから、音楽の幅が広がりましたね。

 

ピアノを編成に入れることはメンバーの中でも議論があったのですが、コロナ禍でFILM HORNSFILM TRUMPETS という小編成の演奏会を行うようになりました。スピンオフと呼んでいる、このパートアンサンブルの演奏会にはピアノの手助けが必須でして…。

 

当初は金管楽器のみで演奏することにこだわりを持っていましたが、ピアノが入ることでより金管楽器の魅力を伝えられるのではと気付き、逆輸入する形でピアノを取り入れました。

 

やはり複雑な和音をピアノが鳴らすことで音楽が豊かになりますし、例えばピアノとトロンボーン1本で吹くことで、よりトロンボーンの音色が際立ったり、弱奏部の優しいキャラクターを出す際にも、ピアノの音色が支えてくれると本当に助かりますね。

 

2時間のハードな公演にむけて日々鍛錬

 

ー金管楽器だけで2時間持たせるというのも相当な苦労があると思います。

 

鎌田渓志

まさにそれで、すごい負担がかかります。ピアノを入れることで個々の負担をリレー形式で分担することも可能になったし、少し休める時間は増えましたね。

5重奏や8重奏など比較的少人数の編成も取り入れてはいますが、逆に人数が少ないとステージに立っているときには大変さが増すので、「休めるけど大変」みたいな状況が起こったりします。

 

ー体力づくりにも余念がないのでしょうか

 

森山一輝

2時間を耐えるために、特別なことはしていませんが、練習時間を長めに 強度高めにするといった工夫をしています。あとは、身体になるべく負担のない奏法を研究するとか。

 

長時間吹くと次の日の筋肉痛がやばいんです(笑)ウォームアップとクールダウンは絶対に必要ですね。特に、リハーサルはいいけど本番で緊張してどうしても普段より無理してしまうことがあるので。

 

鎌田渓志

人間の臓器で一番固いのは歯で、それをやわらかい唇でサンドイッチしてるわけなので、唇への負担を軽減することはマストですね。

その一方で、唇をまとめる筋肉はしっかりとした強度がいるので、トレーニングしています。吹き方で負担を減らしつつ、必要な部分は強化していくという感じです。

 

「映画音楽を吹く」ことの特徴とは?

ー鎌田さんは東京藝大卒、森山さんは東京音大・桐朋オーケストラアカデミー出身と伺っています。クラシックのバックグラウンドをお持ちですが、映画音楽というジャンルを吹くことで、ご自身にどんな影響がありましたか

 

森山一輝

映画音楽では、クラシックに比べても、よりきらびやかな音色感、ダークで強いキャラクターが求められるように思います。そこは得意になってきましたね。

 

トランペットは、映画音楽だと信念や意思の象徴とされることが多く、まさに信念を象徴したソロの楽曲があるくらいです。そういったキャラクターが求められる際には、はっきりと表現するようにしています。

 

鎌田渓志

実は音大生のころは金管楽器のレッスンは音楽的なこと以外のレッスンが多いんです。

体の使い方だとか、立ち方、息の入れ方など金管楽器という困難な楽器を吹くというフィジカル的なことで8割くらいは終わってしまう。

 

そして、オーケストラの授業になると、指揮者の先生の持っている音楽を表現することを求められたりして、自分の音楽性を育む機会がめちゃくちゃ多いという印象はなかったですね。

 

映画音楽では、映画の内容に音楽が付随しているので、クラシックよりもキャラクター性も強いし、表現すべきことが明確です。そして、メンバーの間でも解釈がぶれるということは少なく、共通認識ができやすい。

 

そうすると、自然とこのシーンで作曲者がどう感じたんだろう、どうやってこのキャラクターの強さを表現していこうか、という構えになってきます。

 

それを映画音楽で取り組んだ後にオーケストラに戻ってくると、自分の中に確固たる音楽が生まれ、「僕の解釈はこうだよ」と指揮者と目で会話ができるようになっていたんです。今までいかに受け身の姿勢で演奏していたことか…。

 

ーイメージがわきやすい映画音楽で得た表現力を、オーケストラの演奏でも活かせているのですね。

 

鎌田渓志

とはいっても、お客様の耳はクラシック同様に厳しいです。たとえば、金管楽器で速い動きはできないから遅めのテンポでやってみようとしたとします。

 

クラシックであれば、「われわれはこういう解釈で演奏するんだ」と説得することもできますが、映画には必ず対応するシーンの情景がある。

 

軽快に空を飛んでるシーンで、技術的に難しいからと言ってゆったり吹いてたらダメなんですよ。かつて映画を見に行ったときの体験も含めて、お客様の「思い出」なので、そこを損ねるようなことは避けています。

 

ー作品へのリスペクトが第一ということでしょうか

 

鎌田渓志

技術を固めたうえでその上の音楽を追求していきたいですね。確実に正解を求めに行くなら、原曲のCDを流せばいいわけです。同じ曲だけど、ちがってもいい。

 

シネマコンサートのような形態もありますが、僕たちは「誰が演奏したか」ということも大切にしているので、サウンドとして自分たちらしさを出せるように試行錯誤しています。

ジャンルを越境したエンターテイメントとして楽しんでほしい

5月4日に開催の次回公演は新宿文化センター大ホールにて、スペシャルゲストに福川伸陽さんを招いての公演です。公演の特徴は何ですか。またどんな人に来ていただきたいですか?



鎌田渓志

映画音楽って、クラシックでもあるしロックでもあるしポップスでもある。中高生や吹奏楽を始めたての若い方には特に来ていただきたいですし、昔この映画を見たなあっていう思い出がある方にも来てほしいです。

 

ゲストの福川さんは、ご自身がコロナ禍で映画音楽の多重録音アンサンブルのCDを出した人で、世界でも認められている本当にすごい方なんです。

 

ー10回目ということもあり、運営も力が入っているんではないでしょうか

 

鎌田渓志

はい、実はアンサンブルを結成しても、2回目、3回目と続いていくアンサンブルは2割くらいしかないような気がします

 

そこでFILM BRASSは結成時から10回を一つの目標にしようとしていました。今回は1800席のキャパの新宿文化ホールがとれた形ですが、開催日の5月4日は、実は「May fourth」で世界的にもスターウォーズの日になっているのです。

(注:スターウォーズの名台詞、May the force be with you.からとったもの)

 

会場はいろいろな場所でやっていますが、まさにスターウォーズの日に抽選が当選したので、これはもうフォースのお導きだということで(笑)

 

ただ、10回目は大きな通過点として考えているので、もうすでに11回目の会場もとっているんです。

 

森山一輝

練習面ではすでに準備が進んでいます。プロのオーケストラの演奏会とちがって、初日のリハは公演2か月前に設定し、なるべく長い期間楽器と向き合う時間をとるようになっています。



ー最後に、今後の展望や次回公演への意気込みをお聞かせください。

 

鎌田渓志

まずは、僕たちは金管楽器の可能性について追求しているので、「こんなこともできるんだ。」と初めての方々には知ってほしいです。もともと80人以上の規模でやるのを、本当に10人でできるのか?という点に挑んでいるので。

何より、吹奏楽をやってる人にとっては、きっと大好きなサウンドだと思います。

 

それからゲストのすごさですね!N響をやめて、ホルンのソリストで世界的に活動できている方というのは本当に稀です。世界トップレベルの人が共演してくださる舞台が3,000円というのは価値あることだと思います。

 

1,800席は広いですが、一番のびのびとした音色が出る気がしています。

大きい空間に響かせたほうが、遠くで聴いたときにきらきらするし、素敵に聞こえるのです。会場が広いのでティンパニや、初めて取り入れる打楽器もあります。

 

これまでにない、ジャンルを飛び越えたエンターテイメントを展開しますので、ぜひお越しください!

 

ーありがとうございました

 

FILM BRASSさんが出演される演奏会情報

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WRITER PROFILE:本荘悠亜

1995年生まれ。ピアニスト
東京大学文学部美学芸術学専修(音楽学)を卒業後、3年の会社員生活を経て、桐朋学園大学院大学音楽研究科演奏研究専攻ピアノ科修士修了。音楽教育家・ピアノ指導者としても活動中。